〇長野県

2020年8月10日 (月)

苦土電気石(長野県茅野市金鶏金山)

Dravite NaMg3Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)3(OH) 珪酸塩鉱物

 

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南アルプスの北端・入笠山の、さらに北の山域にある、金鶏金山の苦土電気石です。

ここの苦土電気石は、少量のクロムを含んでいて、透明感のある鮮やかな緑色をしています。珍しいものではなく、特にここでは、白雲母や水晶とともに繊維状、針状でごく普通に見られるものですが、拡大すると透き通った結晶が実に美しいものです。

鉄さびで茶色の皮膜に覆われていることも多いのですが、シュウ酸につければきれいになります。こういう処理はできればやりたくはないのですが、ここで稀に見られるフローレンス石やデュモルチ石などを探すために、いくつかきれいにしてみました。上の1、2枚目の写真などは、そうやってきれいにしたものです。

 

金鶏金山は例によって武田信玄時代の金山のひとつで、この周辺にはいくつも当時の、あるいはその後の鉱山時代の遺構が残っています。下のJR青柳駅から要所に道標までありますし、現地にも説明板が設置されていますが、はたしてどれだけの人が見るのか。。。バイクの人は少々いるようですが、興味ある人いるかなぁ。まあいないよねw

林道沿いなので、軽トラやジムニー等なら楽に現地まで登れると思いますが、うちの車だと無理なので、林道の往復16kmを歩かなければなりません。ショートカットの山道(あるいは尾根等)を通っても、かなり長いです。。。さらに、このあたりの山道は、どうやらオフロード・バイクがよく走っているようで、道が深く掘られてつるつるになっているところもあって、かなり歩きにくい。。。登山者には、見向きもされていない地域で、ヤマレコの記録もほとんどありません(ここの記録は結構参考にしているのですが)。

すぐそばにはろう石山があり、ろう石、苦土(フォイト)電気石、デュモルチ石などが組になっていることが多いことを考えると、金鶏金山でも苦土フォイト電気石がありそうに思うのですが、どうなんでしょうか(デュモルチ石はあるらしい)。

また、ここから直線距離で1kmたらずのところには、向谷鉱山跡もあります。こちらにも行くつもりだったのですが、さらに遠くなるし、金鶏金山が想像以上に面白かったので、行くのをあきらめました。この地域の山の様子も何となく分かったので、下からまっすぐ歩いて登れそうなあてがついたので、またの機会に行ってみたいですね。

 

ところで、最近行ったまったく別の山域なのですが、休業中の山小屋でトタンを抑えている石が白っぽくて気になって見てみたら、ちょっとした水晶がついているのを見つけました。あってもおかしくない地域だし、確かにところどころで石英のかたまりを見つけたのですが、鉱物採集のポイントとしてはまったく話はなく、古い山行の記録を見てもヒントは全然ない(昔の山行記録だと、鉱山の調査をしていたとか、たまに書かれていたりするんですよね)。これは! と思ったのですが、後でそこから1kmも離れていないあたりに武田の金山があったというあやふやな噂があることを知りました。

山梨周辺だと、なんだか武田信玄がすみからすみまで探しつくし、その後追いをしているだけなのか、という気分になりましたw 地質図を見るより、信玄の行動、信玄関連の地域の伝説などを調べたほうがいいような気がしてきます。戦の進軍の際にも、そういうポイントを絡めているように感じることもあります。

信玄なんなんだよw

 

2020年7月16日 (木)

ヘスティングス閃石(長野県川上村甲武信鉱山)

Hastingsite NaCa2(Fe2+4Fe3+)(Si6Al2)O22(OH)2 珪酸塩鉱物

 

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甲武信鉱山の代表的な鉱物ともいえる、へスティング閃石。

肉眼やルーペで見ると、割と地味な風合いの、濃緑がかった繊維質の不思議な石という感じですが、顕微鏡をのぞき込むと金属的に思える輝きが素敵な鉱物です。角閃石の仲間。甲武信鉱山で検索すると、鉄へスティング閃石と書かれたものが多くヒットするので、これもそうなるのでしょうか。

初めて甲武信鉱山に行って、第2テラスで深緑のきれいにカットされたようなきらきら輝く石を拾って、感動しました。それがこの石。水晶は内包物の多い透明度のあまり高くないものが多く、形もちょっといびつな感じで、自分にとっては甲武信鉱山といえば、このヘスティング閃石とベスブ石のイメージです。

水晶のポイントは見るも無残な感じで掘り荒らされていて、木々の根っこがむき出しになっていたりして、正直あまりそこにいたくないのです。

甲武信鉱山のポイントは結構急な山を登らないといけませんが、梓川沿いの選鉱場あとでも、へスティング閃石がちょっとくっついた石は割と見かけました。

 

自分が鉱物に凝りだしたきっかけは、甲武信鉱山でした。でも、なぜ最初にそこに行こうと思ったのか、思い出せないw ベスブ石目当てだったような気がしますが。。。

あと、湯沼鉱泉はねこでいっぱいだと聞いて、そこにひかれたのかもしれない。

実際、ねこだらけでした。人よりもねこのほうが我が物顔であちこちで丸くなっていて、ここは天国かとw ねこしか入れない部屋もあるとか。どのねこも自由気ままに生活している感じです。ねこが嫌いな人だったら、一瞬たりとも耐えられないと思います(ねこアレルギーのお客さんは、自分の車の中で寝たとかw)。

川上村は遠いですね、清里まで行って、そこから山の中に入っていかなきゃならない。秩父・中津川から三国峠を越えれば着くと考えると、ずいぶん大回りしているわけですが、うちの林道に非力な車だと三国峠を越えるのは多分無理(一度行ってみたいんですが)。

またねこに会いに行きたいなぁ。

 

2020年5月26日 (火)

氷長石(長野県川上村甲武信鉱山)

Adularia KAlSi3O8 珪酸塩鉱物

 

Adularia_kobushim_01

 

結晶の形から、透明な氷長石の結晶だと思います。

長石はいろいろな種類がありますが、氷長石は、カリウムを主成分とするカリ長石のグループに含まれる、正長石の仲間です。

ネット上や鉱物の本にある甲武信鉱山の氷長石の写真を見ると、大きな白濁した標本ばかりで透明なものはほとんど出ていませんが、顕微鏡サイズだとこんな透明なものもあるんですね(ちなみに、この石は氷長石の出るポイントではないところで拾ったものです。どこだったかなあ、その近くの緑水晶のポイントだったか)。

英名のアデュラリアは、イタリアに近いスイス南部のアデュラ山からきています。イタリアでアデュラ山というと、その山域の最高峰3402m峰のこと。ドイツ語だと同峰はラインヴァルトホルンといい、アデュラといえば、アデュラ・アルプスという広い山域のことを指すとか。ややこしい。

この石を最初に報告したのはイタリアの自然研究者、建築家のエルメネジルド・ピニ(1739-1825)ですが、スイスを旅行中に手に入れたとのこと。どちらの意味でアデュラと名付けたんでしょうね。現地の人にどこで拾ったか聞いたら「ああこれはアデュラのあたりの沢で拾ったんじゃよ」(UFO特番のインタビュー吹替風に)みたいな? ところで、ゲーテはこのピニとミラノで会ったそうですが、その時に氷長石を見せてもらったようです。ハルツ旅行中に輝く真っ白い方解石を見つけて「ピニのもっていた氷長石を思い出した」と日記に書いています(木村直司編訳『ゲーテ地質学論集・鉱物篇』筑摩書房、2016年)。鉱物の話題で盛り上がったんでしょうねぇ。

自然研究者、科学・数学分野の専門家であり文学者でもある人物といえば、日本の寺田寅彦、ペルシャのオマル・ハイヤームなどがいますが、やはりゲーテはちょっと他に比べるもののない一頭地を抜く存在です。さらに政治家でもあるというのは、ちょっと想像を越えています。

自分は学生のころ、ドイツ詩の授業(山口四郎先生)をとっていましたが、ゲーテの詩ほど完璧に詩形にのっとり、なおかつ想像喚起力に満ち溢れたものは他にはないなあと思ったのを覚えています。またいまでも覚えている数少ないドイツ語の授業で、物理学者のハイゼンベルクのゲーテについての講演を取り扱ったものがありました。ゲーテの原植物(Urpflanzen)について、DNAを思わせるなどと語っていたのがすごく印象的でした。考えてみれば、DNAは原植物であると同時に原動物でもあるわけで。。。(ゲーテにとっての原植物が観念論でなく現実に存在するはずだという考え方は、あくまでフィールドワークを中心としたゲーテらしいところで、好きだなあw)

岩石については、ゲーテはヴェルナーの影響で水成論をとっていたようですが、フンボルトの火成論以降はかなり揺れていたようです。ちょうどそういう時代だったということでしょうね。光の粒子論と波動論もそうですが(ゲーテの色彩論)、定説が確立していない時代に生きていたら面白かっただろうなあと思います。

 

まあ一言でいうと、楽しそうに採集旅行にいそしむゲーテは、鉱物好きにとっては偉大な大先輩なのですw

 

2020年5月16日 (土)

ベスブ石(長野県川上村甲武信鉱山)

Vesuvianite (Ca,Na)19(Al,Mg,Fe)13(SiO4)10(Si2O7)4(OH,F,O)10 珪酸塩鉱物

 

Vesuvianite_kobushimin_01

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鉱物好きには有名な、長野県・甲武信鉱山のベスブ石です。

ねこでいっぱいの湯沼鉱泉で泊まって、ベスブ石目当てで行きましたが、期待を裏切らないきれいな標本が採集できました。美しい結晶という意味では、ここのベスブ石は日本でも最高級ですね(そんなに他の産地を知っているわけではないけれど)。ほうじ茶の葉っぱのような渋い色、透明度もすばらしいし、うちでは珍しく顕微鏡を必要としない大きさですw

2枚目の石は骸晶っぽく成長丘が発達していて、複雑な形になっています。柘榴石に時々こんな感じのものがありますね(甲武信鉱山でも割と見られる)。

このひとかけの石だけ、きれいな結晶でなく、形状がいろいろ変化したベスブ石がいくつもついていて、下の写真も同じ石から。

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これはもしかして双晶になってるのかな?(双晶についてはこちら

ベスブ石の双晶はネットで探しても出てこないし、どういう形状になるか分からないんですが、何重か斜めに繰り返し接触したように見えます。

あれだけどこにでもたくさんある水晶の双晶がごく稀なのを考えれば、産地の限られたベスブ石の双晶はすごく珍しいものかも!?

ベスブ石の結晶構造は柘榴石と類縁関係にあるらしく、秩父鉱山などでは、確かにどっちだか分からないようなそっくりな見かけをしています(甲武信鉱山のベスブ石は分かりやすいですが)。柘榴石の双晶というのも、あまり聞いたことないですが、これを調べれば参考になるかも? このくらいしか見つけられませんでした(和田信之、広渡文利、高野幸雄「光学異常を呈するザクロ石の光学性・双晶点群および化学組成」『鉱物学雜誌』13巻6号、1978年)。

 

湯沼鉱泉は何度か行きましたが、遠く八ヶ岳を望める高地で、何度行っても楽しいです。何となく、子どものころいつも行っていた丹沢の山小屋を思い出します。動物がいっぱいいるところとか、匂いとか。。。裏の沢沿いの湿地帯には、季節になると水芭蕉が咲き乱れます(木道が壊れてて歩きにくいけれど)。

甲武信鉱山のあたりの山は岩がちで面白いですが、険しいだけでなく、シャクナゲのヤブの大変さを思い知らされたところでもあります。地形図で歩きやすそうな地形に見えても、地図にあらわれない隠れたキレットやヤブで、想定の数倍の時間がかかります。でも知られていない鉱物ポイントが隠れているかもしれないし、多分、ハマるとこれほど面白い山域はないかもしれません。。。

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左:長峰北2200m圏峰の東小尾根岩稜帯。右:同2000m圏峰から、右・小川山、左・金峰山。