〇栃木県

2020年7月18日 (土)

水亜鉛銅鉱(栃木県日光市小来川鉱山)

Aurichalcite (Zn,Cu)5(CO3)2(OH)6 炭酸塩鉱物等

 

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水色の、なんかしゃくしゃくして冷た美味しそうなのが水亜鉛銅鉱です。緑の部分は孔雀石。名前の通り、銅鉱床に生じる、水酸基、亜鉛と銅から成る二次鉱物です。

繊維状集合の濃緑の孔雀石と水亜鉛銅鉱の組み合わせがいい感じですね。特に水亜鉛銅鉱のさわやかな絹糸光沢・真珠光沢の輝きに目を奪われます。

鉱物の魅力の要素のひとつに、組み合わせ、共生があります。鉱物の同定にも役立つし(自分はまだよくわかっていないんですが)、さまざまなミクロの世界の風景を作っている要素です。てのひらの上に乗る小さな石のかけらを顕微鏡でのぞくと、広大な「風景」が広がっているのには、いつも驚きます。

 

水亜鉛銅鉱・Aurichalciteという名前はギリシャ語からきているらしいのですが、はっきりとしていないようです。一説には、オリハルコン(oreichalkon)(!)が語源とか。

wikipediaでは、オリハルコンは、「語源は、オロス(ὄρος, oros;山)のカルコス(χαλκός, khalkos;銅)。『ホメーロス風讃歌』や、ヘーシオドスの『ヘラクレスの盾』などの詩に初めて登場するが、これらの作品では真鍮(黄銅、亜鉛の合金)、青銅(銅との合金)、赤銅(銅との合金)、天然に産出する黄銅鉱(銅との混合硫化物)や青銅鉱、あるいは銅そのものと解釈・翻訳されている。ラテン語では、オリカルクム(orichalcum)。アウリカルクム(aurichalcum;金の銅)とも呼ばれた」(wikipedia 2020/07/18)と記述があります。銅系の金属一般のことだった? まああくまで現代での解釈なので、実際に何に対して使われていた名前なのかは、はっきりしないようです。

なんといっても有名なのは、プラトンの『クリティアス』Κριτίας, Critias)で、アトランティスの幻の金属として出てきたせいですが、読んだことはないです。個人的には光瀬龍のSF(あるいは萩尾望都のマンガ)、『百億の昼と千億の夜』の冒頭エピソードで、プラトンが「(この金属は。。。)オリハルコン!」という場面のせいで、生涯印象付けられてしまいましたw

銅と亜鉛の鉱物につける名前の語源としては、なんとなく納得はいきますが、名前をつけた人は、この水色の美しい輝きが幻のオリハルコンみたいだと思ったんでしょうかねぇ。アトランティス→海→水→水色→水亜鉛銅鉱、というイメージのつながり?(『クリティアス』には、アトランティスの王家は海の神、ポセイドンの末裔だったとあるらしい)

他にも、大プリニウスの『博物誌』には、すでに失われた銅系鉱石・アウリカルクム(auricalcum;金の銅)についての記述もあるそうです。いずれにせよ、このあたりの伝説上の金属によせた命名であるみたいです。

 

ただ水亜鉛銅鉱はモース硬度は1-2で、すごくもろい鉱物で、爪でも簡単に壊れてしまいます。

宝石といわれる条件のひとつは硬いことで、これはその美しさが永続するものである、ということなんでしょうが、水亜鉛銅鉱はまったくあてはまりません。幻の金属は、はかないってことでしょうかねぇw

 

2020年7月 9日 (木)

ラング石(栃木県日光市小来川鉱山)

Langite Cu4(SO4)(OH)6・2H2O 硫酸塩鉱物等

 

Langite_okorogawam_01

Langite_okorogawam_02

 

小来川鉱山のラング石。

以前の記事の石、ポスンジャク石(栃木県日光市小来川鉱山)とは、同質異像の関係にあります。ポスンジャク石は鱗片状でしたが、こちらはもっと透明で四角く、結晶っぽいですね。空色のきれいな銅の二次鉱物です。単斜晶系の形がよくわかります。

名前は、オーストリアの物理学者、ヴィクトル・フォン・ラング(Viktor von Lang, 1838-1921)にちなんだものです。結晶学の創始者のひとりだそうで、けっして悪名高き内務省のハイドリッヒ・ラングではありませんw

原産地はイギリスのコーンウォル。ヨーロッパで採れるところが多いようですが、これは古い鉱山が多いから二次鉱物も多く目につきやすい、ということでしょうか。

写真のラング石は、上記のポスンジャク石と同じ石についていました。確か、沢を遡ってレール跡が出てくる直前の露頭の付近で拾ったものです。割と稀産の部類に入るものだと思いますが、小来川ではそれほど苦労せず見つけた感じです。銅の二次苦物が好きな自分にとっては、沢に緑の石がごろごろしている小来川は、もう一度行ってもっと探索したいところですが、なかなか遠いんですよね。。。

ポスンジャク石の化学式とは、H2Oが2H2Oになっただけの違いしかありません。

同じ素材が、どうしてこんなに違う結晶になるのか、そのきっかけはなんなんでしょう。その場の温度やら湿気やら日の当たり具合とか、石墨とダイヤモンドのように、環境の違いもあるのだろうとは思いますが、あるいは偶然、確率的なものなんでしょうか。結晶そのものの生成に関しても、同じ疑問を感じます。なにかきっかけがあるのか。種のようなものを必要とするのか。

 

結晶というものがどうしてこんなに人を惹きつけるのか。

ふと、錬金術の賢者の石を思い出しました。化学的な現象に仮託した、生命(人間の精神)の秩序の象徴=結晶が、賢者の石といえるのではないか。ランダムな現象である世界における秩序の表象=結晶。確率の海に浮かぶ結晶、無限に続く乱数の中に偶然現れる、意味のある数列のイメージ。

結晶といえば、J.G.バラードの『結晶世界』も思い出します(個人的には『結晶世界』と『夢幻会社』がバラードの最高作だと思います)。すべてのもの(時間さえも、多分精神も)が結晶化していく世界を描いたこのSFは、破滅小説といわれるけれども、バラードの破滅ものはほとんどがそうですが、永遠なるものへの憧憬、強いベクトルを感じさせる作品です。この永遠とは、上記の賢者の石のイメージと重なるものであり、シュールレアリスムやユングの思想の目指す先とも同じものではないかと感じます。

こういうのをまとめて、結晶哲学といったらどうでしょう。

そういえば、生命の誕生、有機物質の組織化に、粘土鉱物の結晶が関与しているという説もありました。詳細は知りませんが、無機物と有機物を繋げる、とても魅力的な話です。

なんちゃらパワー的な怪しげな水晶などの話も、ネットではけっこう目につきますが、こういうのも結晶に対する人間の指向の表れだとすれば、笑い飛ばすだけではなく、そのもつ意味合いを考えてみるのもあながちムダとはいえないかもしれませんね(結晶社会学とでもいうべきか)。

 

2020年5月23日 (土)

ポスンジャク石(栃木県日光市小来川鉱山)

Posnjakite Cu4(SO4)(OH)6・H2O 硫酸塩鉱物等

 

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薄い水色の、細長い鱗片状のものがポスンジャク石だと思います(青の強い塊状に見える部分は、ラング石かも)。

銅鉱床の二次鉱物で、カザフスタンの中央部、鉱物資源の豊富なカラガンダ州のヌラタルディ(Nurataldy)で、初めて確認されました。草下英明の『鉱物採集フィールドガイド』によると、世界で二番目に報告されたのが、ここ、小来川鉱山だそうです。

変な名前ですが、この鉱物の合成実験をしたロシア人地球化学者・ユージン・ヴァルデマー・ポスンジャク(Eugene Valdemar Posnjak〈1888–1949〉)にちなんで1967年に命名されたとのこと。この人については調べてもよくわかりません。

銅の二次鉱物は、青や緑や白できれいなのですが、どれも似ていて、よくわかりませんね(まあすべての鉱物がよくわからないんですけどw)。

ポスンジャク石と同質異像(化学組成は同じで結晶形は違う)なのがラング石ですが、この二つの違いは、ポスンジャク石が鱗片状、ラング石が四角い感じ、とのこと。でもネット上で調べてみると、産地の違いなのかわかりませんが、どう見ても逆なんですけど。。。という例が散見されます(色も水色から緑がかったものまで幅があるが、これは写真の具合かもしれないしなんともいえない)。

もともと鉱物の結晶の形にもいろいろ変化がありますし、毛状のものが集まって板状になったり、板状のものが集まって丸くなったり、固まりになったり、実物の色もちょっとした組成の違いで全然変わってきたり、目で見ただけではわかるわけないよなあ、と感じることが多いです。結局化学組成を分析機器で調べたりしないとほんとのところは分からないわけで、それができない自分は、もう雰囲気でいいんじゃないか、という気にもなってきますw

それでもこうやって色々調べるのは、個人的であってもネットに載せる以上、あんまり適当なことは書けないかな、と思ってのことなのですが、どうせそんな大勢が見るわけでもないし、やっぱり自己満足でいいんじゃないかとも思います。

あと20年くらいすれば、安いハンディ組成分析器とか、Amazonで買えるようになるかも?(需要ないかな?) 自分はちょっとそこまで時間がないかもしれないけどw

 

2020年5月 8日 (金)

藍銅鉱(栃木県日光市小来川鉱山)

Azurite Cu3(CO3)2(OH)2 炭酸塩鉱物等

 

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Azurite_okorogawa_02

 

日光のすぐ南にある小来川鉱山で拾ったものです。

鉱物好きにはバイブル的な存在である草下英明の『鉱物採集フィールド・ガイド』にも出てくる有名な産地ですね。かなり古い本なので、もう産地ガイドとしてはあまり実用的とはいえませんが、小来川鉱山ではまだ現役といっていいでしょう。多くの人が採集に訪れていると思うので、見るべき鉱物がどの程度残っているのか少々疑問ではあったんですが、昨年(2019年)秋に行った時は、それでもかなりの種類のものが見つかりました。

銅の二次鉱物が大好きな人にとっては、まだまだ胸のおどる産地です。青や緑の石がごろごろしてますしね! もしかしたら沢筋では、台風19号の影響で大分かき回されたのが幸いしたのかも?

藍銅鉱の出るズリはごく限られた狭い場所だそうです。それがどこなのか、知らないまま行ったのですが、地形図を見てこの辺に違いないとあたりをつけたところに登ってみると、あちこち掘り返したズリが。。。ああここだなと、すぐにわかりました。みんな掘りすぎw

大きなものは見つかりませんでしたが(期待もしていなかったが)、ルーペサイズのものは運よくゲットできました。

この高い空の色を封じ込めたような透明感のある群青は、探す苦労もどこかに吹っ飛んでいってしまう美しさです。さすが、世界各国で岩絵の具として使われていただけのことはある、魅力的な青ですね。個人的にはFatal Dose Blueと表現したい。

 

ところで、一番上の坑道口のそばに、こんなのが落ちてました。

Okorogawam_01

これは坑道の排水用ポンプのものか、軌道関連のものか、あるいは、坑道内に縦穴があったので、鉱石を引っ張り上げるためのものなのか。。。自分は全然わかりません。

小来川は、このような在りし日の鉱山の様子をうかがわせる遺構もまだあちこちに残っていて、打ち捨てられた廃墟感もなかなか良い感じでした。

こういうのも、鉱山跡をめぐる楽しみのひとつですね。