忍石(神奈川県足柄上郡山北町高松鉱山)
Dendrite(樹枝状晶)(二酸化マンガン MnO2)
東丹沢南にある高松鉱山の忍石です。
樹枝状晶とは、岩石の割れ目などにしみ込んだマンガン等が、枝分かれしつつ樹状に成長した結晶のことで、その結晶がまるで自然に描かれた植物の絵のような姿を見せる石のことを忍石といいます。マンガン鉱山などでは、割とよく見られます。
1枚目の写真では、上部に黒く輝くマンガン鉱(軟マンガン鉱 Pyrolusite?)から、下に向かって石の隙間を結晶がしみ込みつつ成長していったのでしょう。浮彫のように立体的になっていて、なかなか立派な姿ですね。
2枚目は、樹状になる前に成長が止まってしまった姿に見えます。各島にしみ出した穴が黒く見えていて、そこからじわーっと(多分)二酸化マンガンが広がって、まるでマンデルブロ集合のようなフラクタルな姿を見せています。これも忍石の一種といってもいいのかな?
マンデルブロ集合を計算して描画するソフトは、以前はよくパソコンのデモとして使われていたように覚えています。不思議としかいいようのないタツノオトシゴの尾のような形状の一部を拡大していくと、少し違うけれど同じようなパターンの繰り返しが、パソコンで計算できる限り延々とあらわれ続けていくのは、とてもインパクトがありました。自分にとっては、パソコン(というかマイコンか)に対する元イメージのひとつが、このマンデルブロ集合です。謎に満ちた、けれどもわくわくするような非現実的な世界。でも、自然界にはフラクタル(に近似した)形状が満ち溢れています。
マンデルブロ集合は計算式としては、それほど複雑なわけではないのですね。だからこそ、今と比べれば非力な昔の8ビットパソコンでも、容易に計算・描画ができたんでしょう。でも、普通のグラフとちょっと違うのは、その式が複素数(虚数 i を含んだ式の形で表せる数)の式ということ。複素数は座標を示すのに便利なのです。
実際には存在しないように思える数字を使って計算された結果が、自然界にはありふれているのは一体なぜなのか。面白いですね。
昔読んだイギリスのロジャー・ペンローズ(2020年にノーベル物理学賞を受賞しました)の本によって、このあたりへの興味を持ったのですが、鉱物関連でペンローズといえば、ペンローズ・タイル。
ペンローズ・タイルとは、2次元的に、2種類(それぞれ鋭角が36°と72°)の菱形のみを組み合わせて、周期的ではないけれども、「ほとんど」五角形を基本にして平面を充填しているパターンのことです(画像検索すればいっぱい出てきます)。正五角形を並べて敷き詰めても、空間を隙間なく充填することはできないので、結晶では正五角形の要素はあり得ないのですが、ペンローズ・タイルはその正五角形の要素がありつつも、空間を充填できる。こういうパターンの結晶を、準結晶といいます。実際に、こういう「周期的ではないが規則的である」結晶構造をもつ鉱物は発見されています(ダニエル・シュヒトマン他、1984。2011年に「準結晶の発見」でノーベル化学賞を受賞)。
もし鉱物の結晶が徐々に成長していくのならば、周期的ではない構造を持つ準結晶がどうやってできるのか、わけがわからないですよね。同じパターンを繰り返すだけでは、準結晶はできないのです。最初から全体の設計図みたいなものが内包されていなければ、そんな複雑な構造のものができるわけがありません。ペンローズはそこから、量子力学的な要素が必要なのではないか、とするわけです。結晶が決まったパターンで局所的に徐々に成長していくのではなく、結晶全体が、量子力学的な重ね合わせの状態から、準結晶の状態を選択するという。。。
そういえば以前、水晶に内包物がある場合、成長途中に異物があって邪魔をしているのに、どうやって最終的にきれいに水晶の形になるのか、なんてことを書いた記憶があります(水晶(黄銅鉱含有)(静岡県南伊豆町青野川流域)。量子力学であれば、きちんと説明してくれるということか(いびつな水晶の成長はどう説明するのかw)。
参考:ロジャー・ペンローズ『皇帝の新しい心』みすず書房、1994年
古い本だし続編もあるらしいので、内容的には今では知識の書き換えが必要になってくる部分も多いとは思いますが、チューリング・マシンの説明など、当時はもうびっくりするくらい面白い本でした。
高松鉱山は地味なマンガン鉱山っぽいとそんなに期待せず訪れたのですが、面白いものがいくつもあって、思ったよりもずっと楽しいところでした。また取り上げると思うので、その時にもうちょっと詳しく書きます。
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